「君に捧ぐ」


朝露のよう 私は生まれ
あなたを知り 愛を知り すべてを知った そして
美しい日々は流れ去り 今はもう
心果て ただ残骸の時を過ごすだけ


今生まれゆく恋も たったひとときの動(どう)
私はそれを知っている だから
やがて地に堕(お)ち 砕け散り
砂となるその前に
このまま想いを歌にして 耳をふさぐ


冬風(ふゆかぜ)のよう 頬(ほほ)に触れ
あなたを抱き 哀を知り すべては去った そして
温かな日々は押しやられ 今はもう
心閉じ ただ屍の時を刻むだけ


今吹きすさぶ愛も たったひとときの情
私はすでに知っていた だから
やがて朽ち果て 天(そら)が鳴き
雨となるその前に
このまま昔の歌にして 目を閉じる


最後の涙こぼれ落ち 一筋の白い矢が 見上げた空を割る
いつからだったか いつまでだったか 続けた旅を終え
駅に降りた私を 迎えの夜が包み込み 問いかける
「ところでお前は何者だったのか」
私は答えず 走り出す
「何者にもなっていない」と胸のうちで さけびながら


駆け巡った想いは まごうことなき永遠(とわ)の愛
触れてきたすべては 私のうちに 息づく命(めい)
今吹きすさぶ風は きっとはじまりの音(こえ)
愚か者よ 知るのが遅すぎた いや……
なにをしている! はやくゆけ!
私の心よ 君のそばへ


やがて消えゆき 星が呼び
露に還るその前に

私は世界を歌にして 君に捧ぐ






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